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金融政策だけでは物価は上がらない [どう受け止めたらいいのか]

日銀によると「新たに公表した23年度の物価見通しは1%で、23年4月までの黒田東彦総裁の任期中に2%の物価上昇率目標は達成できない」(2021年4月27日 日本経済新聞)ということらしいようです。

日本銀行のHPによれば、
2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
とのことですが、8年経った今もまだ物価は上がっていません。
昨年来のコロナ禍があるにしても意図的に物価を上げるのも難しいようです。


一昨日の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)の中での「なぜ物価上昇が必要か」という解説では、

・・・物価が上がらないと・・・

値段が下がる
  ↓
企業がもうからない
  ↓
賃金が上がらない
  ↓
お金を使わない
  ↓
モノが売れなくなる
  ↓ SALE
値段が下がる

という悪循環が起きてしまうということのようです。
しかし、この整理は現実的でしょうか?
「値段が上がる」⇒「企業がもうかる」⇒「賃金が上がる」⇒「お金を使う」⇒「モノが売れる」⇒「値段が上がる」ということが上手くいくのでしょうか?


例えば、

1.あの安倍前首相はしきりに「企業の賃上げ」を求めていました

にもかかわらず「賃上げができた」(総人件費が増えた)という話や「物価が上がった」という話をほとんど聞きません
つまり「賃上げありき」は有効ではないようです


2.物価が上がるとコストも上がる

・価格競争力のある企業ならコスト上昇分を価格に転嫁できるが100%転嫁できる企業は少ない
・「業績低迷企業」「斜陽産業企業」の場合はコストアップを売値で吸収できない
~「石油価格上昇」のような外的要因(輸入物価高)によるコストアップは日本国に物価上昇効果が生じません


3.儲かった企業はボーナス(成果)で還元する

・「年功序列的賃金」体系から「成果主義」に多くの企業はシフトしてきている
・ベースアップなどは賃金の硬直化をもたらす(一度上げた給与は下げられない)
ことを考えれば、儲かった部分は「賞与(ボーナス)」で従業員に還元するので一律的に賃金が上がるわけではないでしょう。


4.雇用安定効果はあるが非正規雇用の賃金効果が不明

企業がもうかったとしても、賃金が増えるのは正社員だけであり、アルバイトや派遣社員の方にまで賃金上昇効果があるかどうかは疑問です。
ただ、雇用の安定効果はそれなりに期待できます。


5.消費の担い手(買い手)の議論がない

「物価」とか「賃上げ」が企業の側からの論理で説明されていますが、
・「少子高齢化」「年金受給者の増加」に代表されるように買い手の意欲が減退している
・特に食料などでは「高齢化」は購入数量の減少になって現れる
・「断捨離」等で購入動機が明確になりつつある(不要な物は買わない)
・「中古」市場が活性化しつつある
・「サブスクリプション(サブスク)」という「定額」利用も増えてきた
等々、消費構造の変化が大きく進んでいます。


6.企業の経営テーマは「経費節減」であり、また「接待・贈答」も縮小している

個人消費ばかりに光が当たりがちですが、「企業」も消費行動を行っています。
例えば、ボールペンの購入などの消耗品についての節約志向は顕著です。またAI、パソコンの普及とともにボールペンそのものの使用機会も減りました。
また、「コンプライアンス」意識の高まりから「接待」「贈答」なども減りました。「海苔」「茶」「梅干し」などの企業消費は明らかに減っているはずです。


7.「金融緩和」効果が「金融の現場(銀行の法人向け融資)」に届いていない

コロナ禍では赤字補填の融資が伸びたようですが、そもそもの工場増設などの「設備投資」資金や在庫積み増しなどの「増加運転資金」のような前向きな資金需要が伸びていないことが言えます。
どんなに低金利であっても企業経営の現場で資金が使われないと金融緩和効果が薄まってしまいます。
つまり「市中にお金が回らない」現象も起きています。

結果、日銀が株式や投信を買うといったことが顕著に起きています。
不景気の中の株高」が起きる要因にもなっています。
また「ストックオプション」なども株高を歓迎することになっているのでしょう。


つまり「物価を上げれば企業がもうかる」という単純な図式で日本の消費経済は説明できなくなっているのではないでしょうか。


そして、考えておかなければいけないのは、

1.アベノミクスが「インバウンド」誘致を進めたのも「日本国内の購買力が落ちている」ことがわかっているから外国人を呼び込んでお金を日本国内に落とさせようとしたということに過ぎないのではないでしょうか

2.観光戦略が奏功したとしても「安かろう悪かろう」と言った施設のはお金は落ちません。つまり商売格差が拡がっているということにもつながります。

3.かつては「輸出(外需)」と「生活水準向上」に向けた消費増が企業収益を押し上げていましたが、「国際競争力の低下に伴う限定的な輸出」「消費飽和」は企業収益を一方向に押し上げることはなくなったはずです。

4.賃金が上がっても総人件費が増えなければ国民が消費に向ける効果は限定的になってしまいます。
1人当たりの賃金を増やす結果、人員削減が行われたのなら国民経済的には大きなマイナスになるはずです。

5.「サービス産業」シフトが進み、付加価値の高い「モノづくり」が衰退しており、結果、輸入に頼る経済行動になっています。
これでは日本全体の総生産も増えません。
コスト低減とマーケット拡大を求めて海外進出を高めたのは企業です。
こういう企業が日本国内に戻ってくることはあるのでしょうか?


6.「企業20年説」というのがあるとしたら衰退産業や企業はついていけないということが言えます。
つまり、価格引き上げがプラスに働く業種及び企業とマイナスになり突き放されてしまう業種及び企業とかできてしまいそうです。
例えば、紙文化の構造変化が進む「印刷業界」などは大きく影響を受けそうですし、老朽化が進む「ホテル・旅館」などでは客が減るといったことが起きそうです。
工夫や構造改革なくして価格引き上げができるとは思えません
「価格を上げれば儲かる」と網羅的に言えることはなさそうです。


7.「物価」にばかり光が当たりますが、長年にわたり「産業政策」に力を入れてこなかった日本の政策のツケが物価に出ていると言えないでしょうか?
農業、林業、水産業などの衰退もこういう政策のツケであることも否定できません。


8.政治家や公務員のように物価にかかわらず「給料が安定的で」「老後の不安が少ない」人たちが考えていることの危うさが顕在化しつつあるのではないでしょうか。


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